ハイダー・アッカーマン演出のカナダグース新作、あの「ウエストを絞ったオーバーサイズ」は本当に街で映えるのか?
冬のヘビーアウター選びは、いつだって理想と現実のせめぎ合いだ。温かさを最優先するとどうしても巨大なマシュマロのようなシルエットになってしまい、都会の街並みの中で野暮ったく見えてしまう。そんな永遠の悩みに一石を投じるように発表されたのが、ハイダー・アッカーマンがクリエイティブディレクターとして手がけたカナダグースのシーズンカプセルコレクションだ。カナダグースといえば、極寒の地に耐えうる実用性の象徴であり、どこか硬派で質実剛健なイメージが強かったブランド。そこにハイダーならではの流麗でモードなアプローチが加わると聞いて、ニュースを見た瞬間から私の頭の中は期待と一握りの不安でいっぱいになった。特に目を引いた「ライダー パーカ」の変形シルエットは、これまでの防寒アウターの概念を覆す可能性と、スタイリングの難易度の高さを同時に突きつけてくる。
まずこの「ライダー パーカ」の設計思想に触れてみたい。カナダグースの約70年に及ぶアーカイブをベースにしながら、ハイダーは大胆なオーバーサイズシルエットを採用しつつ、あえてウエストをぎゅっと絞るディテールを組み込んできた。ボディの中央にはいくつものポケットやサイドジッパー、さらにはリフレクターまで配置されているという。カナダグース伝統の撥水性に優れた「アークティックテック」素材を使っているため、あの独特のマットでさらりとした肌触りや高い耐摩耗性は健在だ。防寒性と耐久性を極限まで高めたギアとしてのクオリティを維持しながら、くびれを作ることでモードなメリハリを生み出そうとしている点は、確かにハイダーらしい芸術的な野心を感じさせる。
ただ、ここで私のいつもの穿った見方が顔を出す。「オーバーサイズなのにウエストが絞られている」というバランスは、写真で見るとため息が出るほどスタイリッシュだが、現実のコーディネートに落とし込んだときにどう機能するのだろうか。例えば、インナーに厚手のカシミヤニットやスウェットを仕込んだ状態でウエストを絞ると、生地が変にお腹周りに溜まってしまい、前からのシルエットが膨らんで見えてしまわないだろうか。普段の私の装いは、ワイドなストレートパンツにシンプルなスニーカーを合わせるようなリラックスしたスタイルが多い。そこにこのドラマチックなウエストシェイパー付きのパーカを羽織ったとき、上半身の主張が強すぎて、全身のバランスを取るのがかなり難しくなる気がしてならないのだ。
ここで頭に浮かぶのが、モンクレールやタトラスといった他の高級ダウンブランドとの比較だ。モンクレールが提案するスリムでエレガントなラインや、タトラスの洗練された都市型のシャープさは、良くも悪くも「誰が着ても綺麗に見える」安心感がある。それに対して今回のカナダグース×ハイダー・アッカーマンの試みは、非常にエッジが効いていて着る人のスタイルやセンスを強く試してくる。無難な高級感を求めるなら既存の定番ブランドを選べばいい話だが、「周りと被りたくない」「モードな毒気を防寒着に取り入れたい」という強い意志を持つ人にとっては、この不均一で実験的なフォルムこそが唯一無二の魅力に映るはずだ。
今回のカプセルコレクションには、アウター以外にも気になるピースがいくつか並んでいる。軽量なシャツジャケットである「セレスティア ジャケット」は、光を反射するリフレクティブナイロン素材を使用しており、スポーティさと未来的な質感が同居していて実に興味深い。また、「クレリア クルー」と名付けられたリブニットは、首元や袖口がゆったりとしたリラックス感のある仕上がりで、細部にまで起毛を施すことで生地を柔らかく仕上げているという。過酷な環境に耐えるアウターの内側に、こうした肌馴染みの良い極上のニットを潜ませるというストーリー展開は、ハイダーの服作りに対するフェティシズムが凝縮されていて実に好みだ。
しかし、同時にラインナップされている「トレック レギンス」や大きなイヤーフラップ付きの「アヴァロン ハット」まで目をやると、コレクション全体として少しコンセプトを詰め込みすぎている印象も否めない。レギンスにしてもハットにしても、ランウェイやルックブックのビジュアルとしては完璧な世界観を構築しているが、氷点下の東京の街を歩く日常着としてトータルコーディネートするのは、よほどのモード上級者でなければ持て余してしまうだろう。アイテム単体としては非常に魅力的だからこそ、引き算のコーディネートが一層重要になってくる。
では、このコレクションは果たして「買い」なのか。個人的な結論としては、もしあなたが日常の防寒着として「サッと羽織れて何にでも合う服」を探しているなら、一度立ち止まって冷静になることをおすすめする。この「ライダー パーカ」は、適当なスウェットパンツの上に引っかけてサマになるような甘い服ではない。合わせるパンツの太さやシューズのボリューム、ジッパーの開け具合まで計算し尽くして初めて、ハイダーの意図したグラマラスなシルエットが完成するからだ。安易な気持ちで購入すると、クローゼットの中で浮いてしまうリスクは大いにある。
それでもなお、夜の光を浴びて鈍く光るアークティックテックの質感や、サイドジッパーを少し開けて歩いたときに生まれる美しいなびきを想像すると、胸の奥がざわつくのを抑えられない。実用性とハイファッションの境界線をこれほどまでに強烈に揺さぶるアウターは、近年のダウンジャケット市場を見渡しても滅多に出会えるものではないからだ。完全に着こなすハードルの高さに身踏みしつつも、自分のワードローブにあの強烈な存在感を投げ込んでみたいという危険な欲望が、今も頭の片隅で渦巻いている。
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